#0 始まり
大学2年生の2月の上旬のことである。他大学のある研究室の学生さんと先生とお話しする機会があった。
地域活性プロジェクトの研究をしているその方々は、学部の2、3年生のうちから実際に現場に出て社会問題に取り組んでいた。
自分が学んでいる数学があまりに抽象的で具体的な社会間題からかけはなれていると感じていた私は、早々に社会に貢献しているその方々の姿を見て、すごいと思ったし焦りを感じた。
「自分は数学が好きで、専攻しているが、みなさんのように学生のうちから社会に対して具体的にはたらきかけている学生がいるのに対し、好きなことだけをしていていいのかと焦りを感じる」、そんなことを話した覚えがある。
自分の中で社会と数学との間には大きな溝があった。数学の知識はあまりにコアで鋭っていて、「 一般的な知識」「誰もが使える便利な知識」ではなかった。
それを聞いた学生さんの1人が、私が思ってもみなかったことを口にしてくれた。
「自分達はプロジェクトを行う中で専門的な知識がなく困ることがある。現地で困っている人を助けたくても、一般的知識だけでは現地の人たちと一緒に右往左往してしまう。専門性があればもう一歩進んだことができる。その意味で、あなた達のとがった専門性というのは社会から必要とされているはずだよ」と。
「実際に動く力と専門性、どちらも大切だね」と教員の方がまとめてくれ、その後お互いどのように補えあえるかアイディアをかわして解散した。
「そうか、数学は社会に必要とされていたのか。自分がこれから身につけていく専門性は人の役に立つんだ。」
身内にしか伝わらない趣味のようにとらえていた数学の印象がガラリとかわった。
それ以来、具体的にどのようにして数学が社会に役立てられているのか、どんなことが期待されているのか、調べるようになった。
また、自分の今後のキャリアとも関連づけて、数学の専門性を活かす職場にはどのようなものがあるのかも調べてみた。
実際に少し検索しただけで、よく知られているITの分野をはじめとし、様々な分野に思いもよらないやり方で数学が応用されていた。
一方で、私自身が当初気が付いていなかったように、数学と社会との関連が認識されていないために、両者の間に架け橋が少ないことを知った。数学者は学問としての純粋な数学(純粋数学)に偏りがちであり、社会は数学を敬遠してしまう。
数学者が築き上げたものが狭い世界で完結してしまうこと、数学によって起こせる良い変化がそのまま諦められてしまうこと、そのどちらももったいないと思う。
これが、「数学と社会」というテーマで記事を書こうと思った動機である。
コラム「あくまで主観です」
数学科での学習では、タイピングでは表現不能な記号も多いため、基本的に手書きで学習が行われる。
講義資料も先生の手書きがデータで送られることが少なくない。そんな手書きの講義資料はイメージ図などもあり個性が出ていて見るのが楽しい。
そんな講義資料から見よう見まねで数学の勉強を初めてはや2年が経った。ノートはもちろん、レポートも手書きである。自分のノートにもオリジナルで図をよく描く。
自分で図を描くと、今までツンとして心を開いてくれなかった数学の内容が、少しこちらに働きかけてくれるようになる。それが何とも嬉しくて、愛着を感じざるを得ない。
皆さんもぜひ、分からない数学は自分なりの図にしてみてほしい。下手で構わないと思う。
誰にも見せなければいい。
記事を書いた人
花木
8BOOKs SENDAI学生部
2002年、長野県出身。2021年東北大学理学部数学科入学。入学当初、興味の対象は主に純粋数学だったが、最近は数学の知識や数学的思考を社会に役立てる応用数学にも興味を持っている。ゆくゆくは,8Booksで子ども達を対象に数学の魅力を伝える企画なども行いたい。