この企画では、仙台在住の25歳以下の若者世代が日々どんなことを考えて過ごしているかをインタビュー。
「仙台っていまいち楽しいことないな」
「なんかしてみたいけど、どんなことをしたらいいか分からない」
と思っている若者のみなさん、このインタビューを読んだらきっと仙台を舞台に自分を表現したくなるはずです。
【今回のインタビュー:エンスペース株式会社 坂本 瑠菜さん】
東北最大級のシェアオフィス・コワーキングスペースであるenspaceでコミュニティリーダーとして働く坂本さんにインタビュー。
坂本さんは昨年、大手企業での前職を経て大学時代に過ごした仙台へと再度移住し、現在はenspaceで活動する16名のインターンを統括しています。地元である群馬から仙台、愛知、宇都宮…そしてまた仙台へと辿り着いた坂本さんは、ここで暮らしながら何を感じ、考えているのでしょうか。
ーそれでは改めて坂本さんの経歴を教えてください。
出身は群馬県の高崎市です。
大学進学を機に、東北大学の経済学部に進学するために仙台に移住しました。それが私にとって初めて東北に来るきっかけとなりました。大学時代に半年間だけ台湾に留学しました。
ー留学!台湾ではどんな勉強をされていたのですか
もともと大学で勉強していたのが、NPO法人とか非営利組織などの分野についてだったんですけど…友人が当事者だったこともあって、LGBTQについて研究しようと考えていました。
研究を進めていくうちに、台湾では同性婚がアジアで初めて合法化される、というのを聞き留学することに決めました。なぜ台湾がアジアの中でも、いち早く同性婚の合法化が進んでいるのか気になったことも大きな理由のひとつです。
台湾留学時の坂本さん
仙台から愛知、宇都宮
そしてまた仙台へ
ー卒業後はどんな進路に進んだのでしょうか
卒業後は愛知県に本社のあるメーカーに就職しました。いわゆる製造業界に就職して、営業として配属されました。研修の2ヶ月だけ愛知に行って、配属先で宇都宮に2年ちょっと営業として働きました。
その後に、仙台に戻ってきたという流れですね。
ー「仙台に戻ってきたい」と思った理由はどのようなものだったのでしょうか
感覚的なことにはなりますが、学生時代を仙台で過ごした思い出が大事なものとしてあって…。それがきっかけで仙台に戻ってきたというのもありましたし、いい意味で仙台って無理していない感じがある気がします。
疲れていないというか…。自然があって、かといって何もないわけではなく、都会的な部分もあって、バランス良く過ごせる場所ですよね。そののびやかさが「仙台っていいな」と思う理由です。
ー坂本さんが持っている仙台への良いイメージというのは、学生時代のいい思い出がそう思わせるんでしょうか
そうですね〜
学生時代にNPOの研究をしていたのですが、ゼミのみんなで三陸の方にボランティアしに行ったり、そういう場所への思い出があったりもします。
あとは学生時代にenspaceでインターンをしていたことで、いろんな人といろんな繋がりを持つことができた、っていうのはすごく自分の中で大きくて…
そういう繋がりを持てたことや、繋がった人との思い出を大切に思っていたので、それがまた「仙台に戻りたい」という感情につながっていると思います。
坂本さんの学生時代
心が動く方を選ぶ
ー前職の配属先であった宇都宮に住んでも「仙台に帰ってきたいなあ」という思いは変わらなかったんですね
私が宇都宮にあるコミュニティに積極的に入っていかなかったというのも、理由のひとつとしてはあると思います。でもやっぱりなんか…海があるっていいですよね!
ー私も学生時代に住んでいたところも海がなかったので、その気持ち分かります(笑)
山田さんは出身が石巻ですもんね。
海街の雰囲気とか、人がのびのびしている感じとか…そういう特徴って海があるもしくは、海のそばにある土地ならではのものだと思います。
ー実感としては感じたことがあまりないのですが、そういう部分もあるかもしれません(笑)
群馬も栃木も…まあ愛知には海があるんですが、私自身がずっと内陸で過ごしてきて、宮城が初めて海のある県として住んで…関連性はわかりませんが、海があると心が豊かになる気がしますね。
ー仙台に来て、インターンに取り組んだことで、考え方が近い人たちのコミュニティに所属できたことも坂本さんの中では仙台に戻ってくるひとつの理由になっているんでしょうか
私がこっち(仙台)に戻ってくる時にはすでに友達は結構東京に行ったりしていて…
私が学生時代にenspaceやゼミ関連で出会った人たちは、みんな何かにチャレンジしていたり、何かに課題意識を持って取り組んでいる人たちが周りに多かったんです。
ただ、社会に出て、いわゆる大手企業に所属したことによってそういう人たちに出会うことが少なくなっていきました。
ー就職しちゃうと仕事一色に暮らしがなってしまいがちで、日常的に出会う人は必然的にお仕事に関わる人たちが多くなってしまいますよね。
そうなんですよね。だから、あんまり心が動かない、というか。
でも仙台で過ごしていた学生の時は、いろんな人と会って刺激を受けたりとか、いろんな食べ物を食べたりとか、この街を歩いて心が動いたなー、という感覚がありました。
心が動く、動かないは自分の中で大事に思っている部分なんだ、という自覚があったので…
それもあって、生活していくのは「仙台がやっぱりいいな」と思いました。
enspaceのインターンで
0から1を創った先輩達に出逢う
ーenspaceさんでインターンしようと思ったきっかけを教えてください
元々はゼミの先輩の紹介です。
NPOとベンチャー系は自分の中で離れたジャンルだったので、とりあえず話を聞いてみようと思って行ってみました。
「知らない世界である」ということへの興味が一つと、そこでインターンしている学生が輝いているように見えたことが一つです。
大学時代にはenspaceでインターンとして働いていた
ーインターンを始めたのは大学何年生の時だったんでしょう
大学3年生の時ですね
ーそこで出会った学生や、enspaceさんの運営の方がいらっしゃると思うんですけど、印象に残っている方とか、「すごいな」と思った方とかいらっしゃいますか
私はenspace2期生なので、入った時にすでに先輩がインターン生として活動していました。
その人達は完全に0から1を作り出している人たちで、内部の制度を整えたり、マニュアルを作ったり…組織の骨組みを作っている人たちでした。
私は自分でそういうことは得意じゃないな、と思っていたので、それをみて純粋に「すごいな」と思いました。あとは、企画提案力が高い学生が多いことも印象的でしたね。
ー大学の中だけだと、なかなかそういう活動をやっている人と触れ合う機会は少ないですよね。
所属していたゼミは、自主的にテーマを決めてみんなで運営していくという主体性を大事にするゼミではありましたが、ビジネスという文脈で「お金を生み出す」「お客様の満足度を高める」という切り口で企画を立ち上げ、自分自身で進めていくという学生にはenspaceに入るまで出会ってきませんでした。
ー巷では聞くけど、本当にそんな学生いるのか…?という気持ちになりますよね
いわゆる《意識の高い学生》との出会いはenspaceでしたね(笑)
enspaceにすでにいた先輩方に対して、「自分は何にもできていないんだなあ」と感じてアイデンティティに悩む、という時期もありましたし…。
ただ、だからこそ、「私はこういう方面で絶対に人の心に残る学生になってやる!」と燃えて…。意識が高いメンバーが周りにいたから燃えた、っていうのはありますね。
インターン生、それぞれのカラー
ー坂本さんは元々、外に目を向けている学生だったとは思うのですが、「なんかやりたいけど、何していいかわからない」という学生もたくさんいる訳ですよね。
enspaceさんのインターンしている学生さんでもそういう学生がいらっしゃるんでしょうか
私はいまenspaceで運営のコミュニティ事業部のコミュニティーリーダーというポジションでお仕事をしています。
そこで16名のインターン生を統括する仕事をしていて、採用についても、ある程度裁量をいただいています。
「enspaceに入りたいでーす」と言って来る学生は「何かやりたいけど、何していいかわからないです」というもやもやの状態から、「何かヒントを探しにきました」という人まで様々です。
「何かやりたいけど…」という学生も割と多いですよ
enspaceで働くインターン生たちと坂本さん
ー「なにをやりたいかわからないけど、何かやれそうだから来た」という学生にはどういうアプローチをしていますか
そういう気持ちを抱えている学生には、「enspaceのインターンをやっていて巡ってきたチャンスを自分のものにするのも、そのチャンスを活かして成長するのも自分次第だよ」と言う話はよくします。それを理解した上で、「enspaceでインターンをやりたい」と言うメンバーについては「じゃあ、一緒に頑張ろう」と。
ー「何かしたい」を探そう、一緒に、というところなんですかね
それもありますが、「お客様の満足度をいかに高められるか」とか「快適にここを使っていただくかとか、ビジネスの発展にどう繋げていくか」というenspaceを運営するための軸があり、それに共感してくれる人であれば、特別なスキルやテーマを絶対に持って参加しなければいけない、というのは問わず「一緒に成長していこうね」というスタンスです。
学生とのコミュニケーションで悩んだ一年
ー坂本さんは今から一年位前にenspaceにジョインしたということですが、まだ入って日がそんなに経過していない中で、インターンの人たちを任せられるというのはかなり大変だと思います。実際、コミュニティリーダーというポジションについてみていかがですか?
自分も悩みながら、学生と向き合いつつ…メンバーともコミュニケーションをとりつつ…「ああ、難しいなあ」と思いながら一年が経ちました。
ー坂本さんは一人で16人のインターンをまとめていらっしゃるんでしょうか
私一人、というより、enspaceにいる私を含めて4人の社員を軸にしています。
インターンもグループに分かれていて、インターンのリーダーもいますね。
ー8BOOKsにも学生部があって、10人の大学生がいます。当たり前ですが、一人一人全然違う人間なのでなかなか大変なこともあります…
分かります…。
インターンと関わってみて、自分の手駒の少なさ、というか人とのコミュニケーションのレパートリーの少なさをこの一年で実感しました。
ーいろんな人がインターンの学生の周りにいないと、対応しきれないのかもしれないな、と思うのですが、そういう時に坂本さんは周りの社員さんとコミュニケーションをとって乗り越えていかれるんですか
それもありますが、(学生との)コミュニケーションの量はたくさん取るようにしています。それが、ディスカッションだったり、他愛もない話をしたりとかご飯を食べに行ったりとか、ゲームしたりとか…。
その中でも、自分がインターンをみられる限界があるので、そのキャパシティを広げるように善処はしつつ、「この子には、この社員さんの方があってるかもな」とかはなんとなく自分の中で持っていて。
そういう時は社員間でも共有しています。ただ、基本的には社員やインターン関係なくコミュニケーションをたくさん取るように心がけていますね。
ー仕事の時だけ、インターンに接する、というよりは接する時間を単純に多く取る努力もされているんですね。
そうですね。学生と接する時間は、他の企業や団体よりもすごく多いと思います。
ーそうすることによって、だんだん(学生が)心開いてくる感じがしますか
それもありますが、私自身やりきれていないところもあるので、来期はもっと自分がみられていなかった学生ともコミュニケーションを取るようにしていきたいと思っています。
ーそこまで、密に学生とコミュニケーションを取れる持久力が私にはないので、素直に感心しました…
私も得意ではないです(笑)コミュニティスタッフをやっていながらも…
ーenspaceさんのインターンの業務は基本的に施設の運営になるんでしょうか
基本は施設の運営をベースにしています。それ以外だと、イベントを企画したりとか、SNSに投稿する記事の作成とか…
enspaceの施設内
「東北最大級」という言葉通り、会議室やキッチンなど様々な利用シーンに合わせたスペースが用意されている
ー8BOOKsの学生部とやっていることが近いなあという印象なのですが、enspaceのインターンの学生さんは自分達で積極的に取り組んでいるんでしょうか
※8BOOKs 学生部=8BOOKsでアルバイトをしている大学生・高専生。「仙台リブランディング」をキーワードに仙台の若い世代に届くようなコンテンツづくりや発信を行っている
0から1を作り出していた時代はそういう学生が多い印象だったのですが…(笑)
enspaceも5期目を迎えて、ある程度内部の制度が整っている状態になっています。フェーズ的なものもあるとは思いますが、いまちょっと積極性が落ち着いている状態ですね。
ただ、積極性を促す努力を運営もしていて、いまちょうど種まき中というところです。
ー坂本さんとしては積極性が落ち着いていることに課題を感じているんですね。
課題というよりは、余白を自分達で作り出して埋めていける、というのがベンチャー企業ならではの強みだと思うので、学生のうちからそういった経験をしてほしいなと思っています。
やらされる仕事だけではなくて、自分がやりたいと言って手を上げてくれるような仕組みづくりをしていくのが、私の仕事のひとつだと思っています。
ーなかなか一筋縄ではいかない仕事ですよね。いま16人インターンがいると思うのですが、学生だから卒業して何人か抜けて、また何人か入ってくると思うと、本当に大変な取り組みですよね。
何人か抜けるだけで、違うチームになってしまいますよね…
あたたかみのあるコミュニティと人
ー坂本さんは学生と触れ合う機会が多いと思いますが、1年関わってみて仙台の学生はこんな人が多いな、とか感じるところはありますか?
enspaceで出会う学生は、もちろん課題意識を持って「これやりたい」とチャレンジしている学生もいますし、何かを探している学生も多くいます。
東京がどうかわからないのですが、地方都市の仙台は比較的課題意識を持っている人が多いように感じます。
ーなるほど。仙台とひとくちに言っても、コミュニティや地域によって大学生のカラーは変わりますよね。仙台の学生のように、大学に進学してから街のコミュニティに入っていくということが珍しいのかな、と思います。
東京とかだと、都市的なので「町おこし」という発想にはならなそうですし…。
コミュニティや学生にあたたかみがあるのも仙台の特徴かもしれません。合理的な課題解決の方法を求める学生よりは、そのコミュニティに気持ちがあって所属したり、チャレンジしたりする学生が多い気がしますね。
学生だけではなくて、社会人の方もそういう方が多いなと感じます。
enspaceで坂本さんと一緒に働く社員やインターンメンバー
社員として働くメンバーは様々な業界を経験してきた個性豊かな人が多い
ーenspaceさんで働くメンバーの方々はどんな人が多いですか
enspaceには様々なバックグラウンドを持つ社員が集まっています。
そのため、画一的なロールモデルがいるような場所というよりかは、アーティストやデザイナーとして仕事を経験してきた社員もいれば、カスタマーサポートを専門としている社員もいたり、かたや私のようにちょっと堅めの職から転職してやってきた社員もいたり…。
ー様々な職種を経験してきた方が身近にいると、学生も「色々な選択肢があるんだ」と思ってくれそうですね。社会人のイメージって、会社に所属するというイメージが強いと思うので、人生の選択肢が増える気がします。
人間味溢れる
文化横丁が気になるスポット
ーここまで、坂本さんご自身のご経歴と合わせてenspaceさんについてもお伺いしてきましたが、地元ではない宮城で過ごして好きになった場所とかがあったらぜひ教えてほしいです。
仙台からちょっと離れてしまうんですけど、私、女川がめっちゃ好きです。
あとは、仙台の中だったら「文化横丁」とか。ちょっと裏道入るとディープなスポットがあって、人間味溢れるのが好きですね(笑)
ーあの辺は駅前のチェーン店と違って、人間模様がみられるのがいいですよね。
文化横丁とか、いろは横丁とかで好きなお店を教えて欲しいです!
まだ開拓中なんですけど、「スナックすみれ」というお店があって…。そこはスナックなんですけど、ちょっとしたフランス菓子とか、ワインとか出しているお店なんですよ。
女性が一人で切り盛りしていて…めちゃくちゃおもしろかったです…!
ーえ、一緒に行きましょう(笑)
絶対に行きましょう(笑)
ー飲み屋街に、人間くさい人間がいると土地に愛着が湧く気がしますね。
そうですね…
人が根ざして生活しているっていうのが見えるので、それがいいなと思います。いい意味で人間くさい人を感じることによって、ちゃんと「生きている」と感じられるし、無機質な雰囲気よりは「いいな」と感じますね。
「学生も社会人も交わって刺激を受けることのできる場所が増えたら…」
ー坂本さんは「仙台が好き」だとおしゃっているんですけど、とはいっても「もう少しここがこうなったら、もっといい仙台が見えるんじゃないか」というところはありますか
enspaceに所属していて、学生にも社会人にも接する機会が多いので思うことではあるのかもしれないんですけど、もっと学生がチャレンジする場所とか、社会人と交わって何か刺激を受けることのできる場所が増えたらいいのかなと思います。
私もそういう場所があって、「仙台っていいな」と思ったうちのひとりなので、そういう人たちが増えていけばどんどん仙台に戻ってきたいな」とか「仙台に移住してみようかな」と思ってくれる人が増えるんじゃないかなと思います。
ーenspaceさんとはやっていることが近い部分もあるので、私たちもそういう場所を作れる施設のひとつとなれるように頑張っていきたいと思います!
坂本さんやenspaceさんに興味のある方は、ぜひ一度enspaceを訪れてみてもいいかもしれません。
enspace (エンスペース株式会社)
2018年6月に東北最大級のシェアオフィス・コワーキングスペースとして、東京のIT企業である株式会社エンライズコーポレーションがオープン。
シェアオフィスとしての活用以外にも、スタートアップ企業の支援からコミュニティマッチングまでビジネスに関わる様々な分野の支援をしている。また、学生インターンを多く抱えているのも特徴のひとつ。今回お話を聞いた坂本さんのように、仙台で何かにチャレンジしたい学生や、社会人と関わりを作りたい学生を支援しながら一緒に活動をしている。
編集後記
坂本さんとはこのインタビュー企画を通して初めてお会いしたのですが、インタビューをする前と後では全く違うイメージになったのが印象的でした。
佇まいやお話の仕方から柔らかく優しい印象が強かったのですが、いざ取材を始めてみると自分の仕事や人生と真摯に向き合っている姿が現れてきました。
大手企業からの転職、その経緯も興味深く、自分の与えられた立場や仕事に向き合いながらも日々の暮らしへの違和感もそのままにせず、自分に問いかけ思い切って転職や移住をする…
なかなかできることではありません。私も日々に退屈さを感じた時は、自分の「心の動く方」を選ぶ勇気を大切にしたいと思える出会いでした。
記事を書いた人
山田
デザイン企画
1996年生まれ。宮城県石巻出身、仙台在住。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)空間演出デザイン学科卒。8BOOKsではデザインに関わる仕事を担っている。遠出が極端に苦手だが、散歩は好きで、引っ越しの回数は人より多い。
好きな作家
三浦綾子
高瀬準子
町田康
モーパッサン