余談「数学と社会」こぼれ数学話:ペアノ曲線を証明したい
0.3のシャーペンで正方形を塗りつぶすイメージだ。これはあくまでイメージで、数学の世界の曲線には太さがないからその曲線で塗りつぶすのはシャーペンよりもずっとシビアだ。
正直こんな曲線はありえない。あってはならない。このような曲線が存在しないことは比較的簡単に示せるのではないか。そう思った私は、まず非存在の証明に取り掛かった。(存在するか否かを求めるレポートが出ていたから切羽詰まっていた)。
何日間か考えたが、非存在を示す証明はなかなかうまくいかない。証明がみつかったと思っては証明の誤りが発覚して見事にすり抜けられてれてしまう。うーん、こまった。非存在が示せないということは、塗りつぶし曲線は存在するのだろうか。そうなるととても困る。なぜなら数学において存在を示す方が非存在を示すよりはるかに難しいからだ。
存在しないことを示すには、「すべての曲線が条件を満たさない」ことを示せばいい。「すべての」というのがポイントで、証明するときに自分で都合のいい曲線を見つけてくる必要がない。どんなに性格のいい曲線ですら条件を満たしてくれないと言えばいいのだ。その一方で、「ある曲線が存在して条件を満たす」ことを示すのは、自分でそのような曲線をさがしてくる必要があるから、骨が折れる。あるか無いか分からないものは、存在の確信が持てない状態でさがしまわるよりも、存在しないことを示してしまったほうが諦めがついて労力を使わないのだ。
そんなわけでどうにか非存在を示したかった私だが、非存在の証明のアイディアは枯れ果て、存在の証明を考えるしかなくなってしまった。存在するわけがないと思っている私は、存在をほのめかす情報がないかとネット検索をかける。もちろんペアノ曲線などという言葉は知らない。キーワードを知らない状態での検索はなかなか捗らなかったが、しばらく調べていくとどうやらそのような不思議な曲線が存在するらしいという情報が見つかってきた。でも自分で証明するまでは信じられない。ネット上の情報を手掛かりに証明の方針を立てていく。むむっ、絶対存在しないと思っていたが、どうやら存在の証明が成り立ちそうだぞっ。自分にとって当たり前ではないことを証明できそうなときほどワクワクする瞬間はない。まさか塗りつぶし曲線が存在したなんて。そして今それを自分の手で構成している!!
そこからは、朝から晩まで証明を書いた。頭が爆発しそうになりながらひたすら書いた。
~~~
無事に書き終えて、オンラインでレポート提出。締め切り当日までかかったが何とか終わってよかった。これ以上にない達成感を感じながら、今まで我慢していた余暇を楽しんだ。日付を超えて、さて寝ようと思ったその時、レポートに課されていたサービス問題を書き忘れたことに気が付いた。締め切りは先ほど日付を超えると同時に過ぎたばかり。
ペアノ曲線の発見は発見当初数学者たちに大きな衝撃を与え、次元の概念の難しさを見せつけるものであったという。今回この記事を書くに当たってペアノ曲線について再度調べてみたが、多数の町を効率的に訪れる経路を求める際に使われるなど、実用的な応用も見つかっているらしい。
参考文献:「ビジュアル数学全史」クリスフォード・ピックオーバー著 2017
記事を書いた人
花木
8BOOKs SENDAI学生部
2002年、長野県出身。2021年東北大学理学部数学科入学。入学当初、興味の対象は主に純粋数学だったが、最近は数学の知識や数学的思考を社会に役立てる応用数学にも興味を持っている。ゆくゆくは,8Booksで子ども達を対象に数学の魅力を伝える企画なども行いたい。