#2 数学を極めた先には?
#0(https://8books.jp/story/detail/5694/)で書いたように、「数学と社会」というテーマに取り組む動機は「自分の好きな数学を学ぶことは社会にとって役に立つのだろうか」という、いわば自分の存在意義に対する疑問のようなモヤモヤだった。
しかし、#1(https://8books.jp/story/detail/5919/)を書くにあたって調べ物を進めると、その心配は無用、私たちが好きな数学の、その奥深さという物は素晴らしいアイディアによってあたかも魔法のような技術を生み出すということが分かった。数学は社会から孤立しているのではないかという考えはまさに偏見に過ぎず、その抽象度に由来する汎用性の高さを武器に、技術とアイディア、社会のある側面と他の側面を結びつけ、問題の解決や理想の実現の大きな役割を果たしていたのだ。
数学を深く考える過程で手に入れた新しい概念・頭の使い方が、数学の世界から帰ってきたときにあらゆる場面で新しい発想を生む一助になることもあるだろう。数学のワクワクは日常生活のワクワクに結びついていた。自分が楽しみながら学んでいることはちゃんと社会に活かすことができると思えるようになった。
さて、自分の中のモヤモヤが解決した今、このテーマは完結したのだろうか。数学が社会に対して素晴らしい働きかけをすると知った今、別の問題が浮かんでくる。数学を技術に応用して社会に還元する過程に必要な人材や環境は整っているのだろうか、という問題だ。
2019年の経済産業省「数理資本主義の時代~数学パワーが世界を変える~」や、岡本健太郎 他「社会に最先端の数学が求められるワケ⑴---新しい数学と産業の協奏」を見る限り、数理系人材は需要に対して供給が不足している状況にある。そもそも数学科への進学に対して「就職に不利になるのではないか」との認識が、日本にはアメリカなどの外国と比べて多くある。その認識に関連してか、博士課程卒業学生の就職先もアカデミアが多く、産業界への就職が諸外国よりも割合として少ない。
この原因は、まさに私自身が当初感じていた「数学と社会の隔たり」の感覚が日本に潜在していることであると思う。先にあげた「社会に最先端の数学が求められるワケ⑴」に「数学は純粋になりすぎる」という言葉がある。日本の数学(研究)は特に、純粋数学に偏りがちで、応用数学嫌いの傾向が強いらしい。それが数学を専門とする人以外からすると「数学は近寄りがたい」と感じてしまう原因になっているのではないだろうか。
この意識改革には色々なアプローチ方法があるだろう。すでに学問と産業・社会を結びつけようという働きかけは数多くあり、数学に限ってもそのような動きは見られる。一大学生として大きな動きを生み出すことはできないから、個人の問題に帰着させてこの記事をしめたいと思う。
この記事の作成を通して、自分の数学に対するワクワクが応用数学を通して生活にワクワクをもたらす産業になると感じることができた私にとって、純粋数学と応用数学は背中合わせの関係、表と裏の関係であるように感じ、純粋数学の純粋さを強調して応用数学を嫌う必要は無いと感じる。この感覚が自分の数学の学びにどのように影響していくのか分からないし、今後数学とより深く関わっていく中でこの感覚に変化があるのは当然のことと思う。それでもこの感覚がある今は、この結びつきが自分の数学の学びを豊かにするだろうという期待を持って、新たな視点から数学を楽しみたいと思う。
記事を書いた人
花木
8BOOKs SENDAI学生部
2002年、長野県出身。2021年東北大学理学部数学科入学。入学当初、興味の対象は主に純粋数学だったが、最近は数学の知識や数学的思考を社会に役立てる応用数学にも興味を持っている。ゆくゆくは,8Booksで子ども達を対象に数学の魅力を伝える企画なども行いたい。